リュネビル刺繍の美はここから始まった──フランスの静かなる刺繍の伝統の町リュネビル
こんにちは。Éclat Noir(エクラノワール)のReikoです。
今回は、私が数度にわたり短期留学をしたフランス・リュネビルの町について、少しご紹介させてください。
「リュネビル刺繍」の名で知られるこの技法がどのような場所で生まれたのか、実際に現地を歩き、暮らし、学んだからこそ見えてきた、静かで美しい刺繍の故郷をお伝えします。
リュネビルの地理とアクセス
リュネビル(Lunéville)はフランス北東部、グラン・テスト地域圏ムルト=エ=モゼル県にある小さな町。
ナンシーからは在来線で約20分、パリからはTGVを利用して約2時間ほどでアクセス可能です。

私はいつも、シャルル・ド・ゴール空港からTGVでロレーヌTGV駅へ移動し、そこからバスでナンシー、さらに在来線でリュネビルへ向かいます。
パリを経由しないこのルートは、落ち着いていて安全。女性一人でも安心して移動できるのでおすすめです。

リュネビルの歴史的建物と文化
この町でひときわ存在感を放つのが、リュネヴィル城(Château de Lunéville)。
「ロレーヌの小ヴェルサイユ」と称されるこの優雅なお城は、18世紀にロレーヌ公レオポルド1世、続くスタニスラス公によって再建されました。
2003年の火災で大きな被害を受けたものの、現在は修復が進み、敷地内には刺繍学校も復活。リュネビル刺繍を学ぶ拠点として、今なおその存在感を放っています。
2枚目はお城の裏の庭園です。


18世紀、ロレーヌ公レオポルド1世とスタニスラス・レシチンスキ公時代に再建が進められました。
2003年の冬の火災の後、2010年からお城は再建され、刺繍学校も再開しました。
フランスの街には必ずシンボルの教会があります。
もう一つのシンボルは、サン=ジャック教会(Église Saint-Jacques de Lunéville)。
ロココ様式の美しい教会で、スタニスラス公が埋葬されていることでも知られています。

リュネビルはフランスの東の端、ドイツとの国境にほど近い小さな町です。この場所は長い歴史のなかで、フランスとドイツの間で幾度となく領土の行き来がありました。
戦争や政治の変動で、リュネビルも多くの苦難を経験しています。特に19世紀から20世紀にかけては、普仏戦争や二度の世界大戦で占領されたこともありました。
こうした歴史は、街の建物や文化の中に今も色濃く刻まれています。ドイツの影響が見られるのは、隣国としての交流だけでなく、過去の複雑な歴史の証でもあるのです。
それでもリュネビルは、その波乱の時代を乗り越え、繊細で美しいリュネビル刺繍という文化を今に伝え続けています。
リュネビルの暮らしと町の様子
リュネビルは、小さな町ならではの落ち着いた雰囲気が魅力です。派手な娯楽施設はありませんが、日常生活には困らない設備が整っており、大型スーパーやパン屋さん、ケーキ屋さんも点在。ナンシーまで電車で20分ほどなので、都会的な要素にも気軽に触れられます。
特に印象に残っているのは、地元の人々のあたたかさ。スーツケースを抱えて階段に苦戦していると、若い方々がさっと手を貸してくださる…そんな場面に何度も出会いました。忙しない都市部とは異なり、リュネビルにはゆったりとした時間と、思いやりが流れています。


フランスのスーパーでは、お野菜などは自分で重さを量ってからレジに持っていくシステムになっています。
レジでも、エコバッグを持参して、購入した品物を自分でレーンにのせ、袋詰めも自分で行います。
最初は慣れないかもしれませんが、リュネビルの人々はそうしたもたもたに対して決して嫌な顔をしません。
どこかのんびりとしていて、焦らずに済むのがフランスらしいところです。日本のスーパーのようにせわしなく動く必要がないので、つい焦ってしまう私にはありがたかったです。
また、フランスではスタッフの方に必ず挨拶をする習慣があります。レジでも例外ではなく、毎回「こんにちは」「ありがとう」を伝えます。毎日のように通ううちに、顔なじみのスタッフが声をかけてくれることもあり、それがとても心温まる経験でした。日本でも子どもの頃はそうだったなと、ふと昔を思い出すような、優しい気持ちになれます。
4. フランス滞在で感じたこと
余談ではありますが、フランスの町ごとに文化や人々の対応には差があります。たとえばパリでは、慣れていないと戸惑うことも少なくありません。言葉の壁に加え、アジア人としての差別を感じた場面も実際にありました。
ですが、ナンシーやリュネビルではそのような経験はほとんどなく、むしろ親切に助けてくださる方ばかり。フランス語が完璧でなくても、丁寧に伝えれば受け入れてくれる文化があります。
私にとって、パリは“憧れ”と“現実”の狭間にある町。一方でリュネビルは、落ち着いて学びに向き合える、心から安心できる場所でした。
おわりに
リュネビル刺繍の発祥地、リュネビル。
この町は、こじんまりとした静かな田舎町でありながら、確かに刺繍という芸術を育んできた土壌を持っています。近隣のナンシーには世界遺産のスタニスラス広場、さらに足を延ばせば、映画『ハウルの動く城』のモデルとも言われる美しい町・コルマールも訪れることができます。
美と歴史が静かに息づく場所、リュネビル。
刺繍に携わる者として、一度は訪れてみてほしい、小さな宝石のような町です。
コルマールの町
